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今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
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中の戯れ言

 美味しい神さまと、黒い人のやりとりに、小娘はぱちぱちと瞬きをした。鳳凰であれば二人の性格や経緯から決してそこに上下関係を想像したりはしないのだが。

 強いのと美味しさは別。

 黒い人が美味しい神さまをやりこめている。そう捉えた悪食は、びちびちしている海鼠もどきにちらちら視線を送りつつ、そんな事を思っている。

「応龍?」

 足りぬかと添えられる名、どう聞いても「おーりゅう」の発音で繰り返す。それはまんまるが鳳凰と名乗るのと同じ香りがした。むー、と無意識のうちに唸って、頬をふくらませる。相手を掴んでいた手が、弛んだ。

 そもそも、と言葉が続いてふくれ面のまま顔を上げる。ゆるりと応龍の手を掴んだまま、黒い人の指す方へ顔を向けた。湖の方。言葉からは、日向でぬくまった縁側の床板の香りがする。それは多分、言葉を紡ぐ黒い人の、意思の香りだろう。指す方からは恐いくらい、純粋な水の香りしかしない。

 視界の端にびちびちとした海鼠もどきがちらついている。少しだけ大きくなったようなそれはまさしく食べ頃だと悪食に訴えるよう。提案に伸ばしかけた手を宙で握る。

「でも――」

 よだれを拭う。それを食べたら引き替えに諦めなくてはならないものが出来てしまう。食欲の狭間で揺れ動いていると――漆黒の一閃。

「わ……」

 無駄のない動きはむしろゆっくりとさえ見えるのに、妖魔の首を落とした剣の技は目をこらさなければ見逃すほどで。やっぱりこのヒトも美味しそうだなあなんてきらきらした瞳で見ていたら。

「わあああ!?」

 感嘆の声がそのまま悲鳴に変わる。
 翳された漆黒の剣が、呪を受けて瘴気を吸い込み、妖魔を跡形無くしてしまった。

「味見ー!」

 若干涙目で訴える。
 美味しそうスケール的には、黒い人>海鼠もどき>今の首、なのだが(ちなみに応龍は、美味しいスケール最上位に確定済みだ)、それはそれ、これはこれ、別の胃袋なのである。片手で黒いヒトの背中を掴んで、ゆさゆさ。

   ***

 原型
by plasebo55 | 2012-12-13 17:47 | 戯れ言