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今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
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住処

「流割、またそれ読んでるんだね」

 えっと、新聞? ミカン箱の上に膝を抱えて座っていたマルガリータが言った。僕が新聞を読み始めたのはかれこれ一時間も前だから、その間彼女はずっと思っていたのだろう。ずいぶんとおとなしく我慢していたものだと思う。それとも、たった今、僕が新聞を読んでいることに気が付いたのだろうか。

 それもありうるな。

 新聞をずらしてマルガリータを見ると、くすりと笑みが漏れた。彼女は膝を抱えたまま首をかしげてこちらを見ている。彼女はこの部屋の所有者なのだから、それは僕を含めてこの部屋にあるものすべて、という意味だけれど、だからこそ、彼女は遠慮して言葉を我慢する必要は無い。

「だから物知りなの?」

 新聞は、毎日地下のマーケットに行って手に入れてくるものだ。売られている新聞のほとんどは市場に出回るまえに横流されたものだが、まれに地下マーケット独自の新聞も売られている事がある。僕が読むのはおおむね後者で、今読んでいるものもそうだった。

「どうかな」

 僕の知らない知識というのはこの世の中にごまんとあって、その中ではマルガリータと僕の知識の差など、差とも呼べないものだと思う。ただ彼女の立場から上を見れば、僕もその中に入ると言うことだろう。

 視点の違い、というわけだ。

「また、戦争の記事だね」

 ミカン箱から腰を上げると、マルガリータは僕の隣に腰を下ろす。ベッドはほとんど揺れなかった。

「すべての人が正しいことを思ったとき、戦争が始まるんだよ」

 頷いて、新聞をめくる。そこにも戦闘の記事が載っている。マーケットの新聞は、知って金になりそうな順に記事になるから仕方がない。

「哲学だね」
「難しい言葉を知ってるんだね、マルガリータ」

 苦笑している自分がいる。彼女は違った?と困ったように首を傾いだ。

「そうだな、こういうのは、へりくつ、って言うんだよ」

 そう、戦争を始めるときに哲学などいらない。すべての人が正義を振りかざしたときに、戦は始まるのだ。

「へりくつと哲学は近い?」

 へりくつへりくつ、と彼女は繰り返す。へりくつというものがどういったものなのかつかめないのだろう。意味ではない、言葉の持つ雰囲気とでも言うのだろうか、へりくつ、の立場のようなもの。

 立場か。僕は頷いた。

「友達くらいにはなれるよ」

 同じ穴の狢だものな。
by plasebo55 | 2005-09-16 23:27 | オリジナル小説