今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

カテゴリ:戯れ言( 407 )

中の戯れ言

「人狼なんているわけないじゃん」

 あくびをすると、彼女が咎めるように眼差しを細くする。

「だって」

 君が昨日、寝かせてくれなかったから。

 なんて言ってみたいものだけれど。

「こんなに朝早く、どうかしてるよ」

 いくら緊急だって言ったって、そう、みんな大袈裟すぎる。

 もう一度あくびをすると、彼女は微かに苦笑した。

 彼女が寝かせてくれなかったのは事実だ。でも大人の事情とかそういう色気のある話じゃない。彼女は幼なじみで、小さいときから恐がりで、いい歳になった今でも夜が恐いと言って、恥も遠慮もなく僕の家を訪ねてくるのだ。そんな日がひと月に2回ほどあるだろうか。夜半うっかり眠りこけたりしようものなら、半泣きの顔でたたき起こされる。そんな眠れない夜が丁度昨日。

「眠いな……寝てていい?」

 さらにその、次の日だ。
 あくびが漏れる。

 彼女は昨日も、やってきた。
 無言で、青白い顔をして。

 二日連続なんて今までないことだったけれど、みんなが村はずれで見つかった旅人の死体の話をしていたから、そのせいだろうと思った。いつもの、僕の話に軽快に相づちを打って、笑って、怒って、そんな乗せ上手な彼女は消え失せていて、僕も次第に、確かにあの話は驚いたねなんて、心のこもらない声で間を埋めるしかなくなった。

「お茶でもいれる?」

 話がもう、本当に尽きてしまって。
 椅子から腰を上げると、彼女に腕を引かれた。

 すぐ戻るから。

 音になったら少し苛立ちが紛れていたと思う。

 それを遮ったのは、彼女の唇で。

 驚いている間に、もう一度、キスをされた。
 うってかわって、むさぼるような、深いキス。

「……ねむい」

 頭を振る。
 自室の窓から見える景色はすっかり夜だけれど、月の光が明るくて村の様子がよく見える。

 ベッドに腰掛け息を吐く。
 今夜も来るようなら、きちんと問いただそう。

 昨夜の彼女を思い出す。怯えた表情、重ねた唇、いつもと違う、彼女の様子。柔らかい感触を思い出しても胸の高鳴りなんて感じない。むしろ、胃のあたりが冷えるような感覚。
 閉じそうな目とは反対に、妙に頭が冴えている。
 聞こえる鼓動はいつもより早い。

 彼女は今日も、来る。
 確信めいたものがあった。

 とんとん。と。
 微かなノックの音に迷わず立ち上がると、相手を確認せずに扉を開ける。

「やあ、いらっしゃい」

 扉が開ききる前に口にして、開いた口はそのままになった。

 彼女は泣いていて。
 涙をこぼす瞳は、赤く、輝いていて。

 どうしたの、と問う前に。
 唐突に理解した。

「上がって。どうぞ」

 見つめた視線を和らげて、いつも通り、彼女を家に迎え入れる。
 案内する必要もない、招き慣れた自室への廊下を歩きながら、必死に考える。

 なにか、言わないといけない。

 昨日口にしていればなにか違ったかもしれない言葉。
 今日でもまだ彼女に届くかもしれない言葉。

 そんな言葉、はたしてあるのだろうか。
 だって彼女は、ずっと――

 足が、止まる。
 付いてきた静かな足音も、止まる。

 自室の扉を開ける。
 き、とかすかに軋んだ音がした。

 意を決して、振り返る。
 なるべく自然に見えればいいなと思いながら。

「ねえ、―――――」



 ***

原型
[PR]
by plasebo55 | 2014-07-15 11:18 | 戯れ言

中の戯れ言

 美味しい神さまと、黒い人のやりとりに、小娘はぱちぱちと瞬きをした。鳳凰であれば二人の性格や経緯から決してそこに上下関係を想像したりはしないのだが。

 強いのと美味しさは別。

 黒い人が美味しい神さまをやりこめている。そう捉えた悪食は、びちびちしている海鼠もどきにちらちら視線を送りつつ、そんな事を思っている。

「応龍?」

 足りぬかと添えられる名、どう聞いても「おーりゅう」の発音で繰り返す。それはまんまるが鳳凰と名乗るのと同じ香りがした。むー、と無意識のうちに唸って、頬をふくらませる。相手を掴んでいた手が、弛んだ。

 そもそも、と言葉が続いてふくれ面のまま顔を上げる。ゆるりと応龍の手を掴んだまま、黒い人の指す方へ顔を向けた。湖の方。言葉からは、日向でぬくまった縁側の床板の香りがする。それは多分、言葉を紡ぐ黒い人の、意思の香りだろう。指す方からは恐いくらい、純粋な水の香りしかしない。

 視界の端にびちびちとした海鼠もどきがちらついている。少しだけ大きくなったようなそれはまさしく食べ頃だと悪食に訴えるよう。提案に伸ばしかけた手を宙で握る。

「でも――」

 よだれを拭う。それを食べたら引き替えに諦めなくてはならないものが出来てしまう。食欲の狭間で揺れ動いていると――漆黒の一閃。

「わ……」

 無駄のない動きはむしろゆっくりとさえ見えるのに、妖魔の首を落とした剣の技は目をこらさなければ見逃すほどで。やっぱりこのヒトも美味しそうだなあなんてきらきらした瞳で見ていたら。

「わあああ!?」

 感嘆の声がそのまま悲鳴に変わる。
 翳された漆黒の剣が、呪を受けて瘴気を吸い込み、妖魔を跡形無くしてしまった。

「味見ー!」

 若干涙目で訴える。
 美味しそうスケール的には、黒い人>海鼠もどき>今の首、なのだが(ちなみに応龍は、美味しいスケール最上位に確定済みだ)、それはそれ、これはこれ、別の胃袋なのである。片手で黒いヒトの背中を掴んで、ゆさゆさ。

   ***

 原型
[PR]
by plasebo55 | 2012-12-13 17:47 | 戯れ言

中の戯れ言

「ああ、今日は良い天気ですねえ」

 洗濯籠を抱えてアリエッタは笑う。
 霧の町で、これほど健やかな天気は久しぶりだ。

 明るい日差しに足取りを軽くして、くるりと回る、エプロンを翻して。
 広がる亜麻色の髪が、きらりと陽光を浴びてつやめいた。

「今日一日、晴れてくれるかしら。

 ねえ先生、お昼、みんなでピクニックに行きましょう。
 みんな今から起こせばお昼までには起きるだろうし」

 大きく伸びた樫の木の枝にひもを結びつけながら問いかける。
 洗濯物が多くて、何本張っても、いつも足らない。

 太陽が、乾いた庭を照らしている。
 黄土色の土に、申し訳程度に残った草も先を黒くして枯れている。
 アリエッタがひもをくくる樫の木も、葉が茂ると言うにはほど遠い。

 生き物たちは朽ちるばかりだ。
 草木も、動物も、人も。
 雨に含まれる、毒のせい。もはや、どんな手を打っても間に合うまい。
 いずれこの世は無人になる。
 そしてのち、人でない者であふれかえるだろう。

「ね、先生、そうしましょう。決まり。
 そうと決まればさっさと干しちゃいますね」

 アリエッタは籠を置くと、腕まくりする。
 軽妙な鼻歌が乾いた庭に響く。

 屋敷は静かだ。
 庭にも、女以外だれもいない。


   ***

 原型
[PR]
by plasebo55 | 2012-09-26 00:02 | 戯れ言

中の戯れ言

「あうっ」

 投げ出され、床を転がる。
 石を敷き詰めた床が肌をこすった。

「……こんなこと! こんなこと許されると思っているの!」

 後ろ手に縛られたまま、芋虫みたいに転がって、身を起こす。
 口の中に広がる鉄の味。
 でも心の中に広がるのは、はらわたの煮えくりかえるような灼熱だった。

「審議会は横暴よ! 根拠のない理由で里を嗅ぎ回って連れ去って!
 あんたたち、何様のつもり! 人を何だと思っているの!」

 にらみつけた先に有るのは、感情を置き忘れてきたような女の顔。
 黒い帽子。
 黒い服。
 黒い靴。
 黒い、紅。

「魔女は、人ではない」

 熱を持たない言葉が、石造りの室内に木霊することなく放たれる。

「だから私は魔女じゃないって何度も言っているでしょう!」

 何度訴えても聞きはしない。
 この女の耳が聞こえているのか疑わしいとさえ、思うくらいに。
 鉄面皮はぴくりとも動かず、代わりに何かを投げてよこした。

 きん、と耳障りな音をたてて、それが床を跳ねる。

「部屋を用意した。人だというのなら、せいぜい魔女に殺されないように気をつけることだ」

 目の前に落ちたのは、銀の、鍵。

「全員そろったら始める。
 君が人だというのなら、せいぜい裁判で証明することだ」

 魔女裁判。
 嫌疑をかけられたら最後、帰ってきた者はない。

「畜生、死んじまえっ!」

 去る後ろ姿に叫ぶ。
 魔女じゃない証拠だって?

 この呪詛がお前を殺さないことがなによりの証じゃないか。



   ***

 原型
[PR]
by plasebo55 | 2012-09-24 14:03 | 戯れ言

ある時船渠で白と青

 船霊――という存在がどれほどあるのか今もそのときも知らないけれど、見たこともない船霊が存在するということだけは、なぜだかそのときから知っていた。
 誰から聞いた知識だったろう。彼か、それとも、船渠に出入りする船大工か、船乗りか。あるいは物語りに出てくる、作られた存在だったか。それは、船に宿り、船を守る、幽霊の様なものだという。船霊のついた船には幸運が訪れ、災厄を免れる。若き船乗りが船首像の面影を残す船霊と(本来は姿が見えぬはずなのに!)恋に落ちる物語などもあって、なるほどロマンチストの多い船乗り達の好きそうな存在だなと思ったものだ。

 船渠という場所で、彼女はどう見積もっても華やかで場違いだった。
 真っ青な丈の長いワンピースに、何故か素足。高くひとつに結い上げた黒髪は、風もないのにゆらゆらと揺れて、時折青みがかって見えた。

「誰か待ってるの?」

 しきりに船渠から海の方を覗いている彼女に声をかけると、彼女は勢いよく振り返った。束ねられた髪が遅れてふわりと回転する。

「……私のこと」

 大きく見開かれた瞳は、髪の毛よりももっと青い。

「あなたのこと?」

 首を傾げる。
 言いかけた唇の形のままぱちりと瞬きした彼女は、急ににこりと笑った。少しつり上がり気味の眦が猫みたいだ。

「なんでもない。うん、そうよ、待っているの」

 うふふ、と笑う。

「あなたは? 誰か待っているの?」

 後ろで手を組んで、首を傾げる。仕草でいちいち揺れる長い髪が印象的だ。
 私は言いよどんだ。別に誰も、と言いかけた唇に何かが触れる。

「わかった、彼氏」

 言葉を遮ったのは、彼女の右手の人差し指で、笑みを深くした彼女の表情で、からかうような彼女の口調。
 尖りかけた唇を押さえた彼女の指を押しのける。彼は戦争に連れて行かれてしまった。それが終わらねば彼は帰ってこないだろう。解っていてもここに来てしまう、愚かな事だと解っていても。

「女は誰しもおんなじね」

 彼女は肩をすくめると、うふふと笑った。

「あなたも彼を待っているの?」

 首を傾げて問い返すと、彼女は海の方へと視線を転じた。

「そうよ。まだまだずうっと遠くにいるけどね」

 私も海を見る。遠くに白波が見えるが、穏やかな色をしていた。
 彼女が船渠の外壁際に積んであったずた袋に腰掛けるから、私もそれに習う。

「戦争に行ったの?」
「そうね…… 戦争のまっただ中にいるでしょうね」
「心配ね」
「そうね、でも」

 海から彼女に視線を移す。
 見られたのを感じたのか、くすぐったがる様に笑って、彼女は続けた。

「大丈夫。私が守るから」

 ぱちり。瞬きする。

「それが私だから」

 彼女は私を見ないまま、その彼がいるらしい海の向こうを見つめていた。

 守る。それが自分なのだと。
 言い切った横顔が印象的だった。

 少し微笑んだままなのに。
 眼差しは硬く澄んでいて。

 方法なんて解らないのに。
 ああこの人は確かに、その人を守るのだろうと、思った。

 そんな方法が有るのならば私も――

「……ねえ、あなたの彼、素敵な人なの?」

「え? ああ……そうね……」

 青いワンピース、青い髪、青い瞳の彼女は、そこでようやく弱気の――というか、どこか困ったような顔をした。

「うん、格好いいわよ。背は高くて、潮風に晒しっぱなしの髪は黄色くて、沢山の仲間がいて、誰にも負けない――」

 はっきりとした口調の最後だけ、よく聞き取れない。

「うん、そんな人」

 聞き返そうとした言葉は、先に、満面の、でも少しだけ照れくさそうな笑みで封じられる。

「うん、そんな人よ、――」

 やっぱり最後の言葉だけ、よく聞き取れなかった。

 そのときの出来事で覚えているのは、あとはたわいもないやりとりだ。
 男はいつも女を置いていく、と、男ばかりが忙しく働く船渠で話をした。
 素性も知れない女二人、物珍しそうな視線を向けられても物ともせず日が暮れるまで延々と。

 その日はそうして終わって、あとは一度も、彼女には会うことはなかった。
 彼女は彼を守りに行ったのだろう。そう思えた私は、だから彼女のことを探すことはしなかった。

 そうしてしばらくの間彼女の事はすっかり忘れて過ごし――少し先の未来に、唐突に思い出すことになる。



   ***


 時間軸がおかしいけれど、妄想なので気にしない方向で。
 
[PR]
by plasebo55 | 2012-09-09 21:39 | 戯れ言

中の戯れ言

 
 いつか、本当に何も感じなくなる。
 
[PR]
by plasebo55 | 2012-03-20 23:50 | 戯れ言

中の戯れ言


一月一日を冬のこの日に決めたのは誰だろう。
十二月三十一日をこの日に決めたのは誰だろう。

その境目に印などないのに、その境目を越せない人間がたくさんいる。
夜が明ければ命が息を吹き返すように、年があければ今までと同じように時が流れたのだろうか。

年が暮れゆくととともに時の流れは緩やかになり、その境目を迎える時にもっとも遅く、遅く。
ふと、立ち止まってしまうほどに、遅く。

しんと静まり返った静寂の中、息を潜めて時を待つ。
時を越えようと、息を潜めてその境目を見据えて。
[PR]
by plasebo55 | 2012-01-06 22:48 | 戯れ言

中の戯れ言



こうやって、現実と繋がっていくしかない。


繋がっていくしかないのだと、教えてくれた。
[PR]
by plasebo55 | 2012-01-05 23:06 | 戯れ言

中の戯れ言

「いつもの散歩じゃ。そのうち戻るじゃろ」

 梅治が長く屋敷を開けるときは、用向きを伝えておくのが常だ。そうでないなら「散歩」だろう。あまり屋敷にはいない男だ。梅治が長い散歩の途中で何をしていようが、沓杷は興味がない。同じく、客人がどんな用向きで訪ねてきたのかも、興味がない。

 濡れ縁で沓杷が、腕を伸ばして大あくびすると、丸眼鏡の客人が困ったように笑った。

「すぐ戻るのであれば待たせて頂いてもよろしいですか」

 短いやりとりの間で、沓杷が問わなければ答えない、気の利かない人物であることを知ったのだろう。ああ、と尻上がりの返事にもじろりとねめつけるような仕草にも動じる様子が無い。

 ぴょうと濡れ縁を飛び降りて、沓杷は客人の目の前に立つ。さすがに、僅かに身じろぎした客人の頭の先からつま先までをじろじろと眺めやる。

「ふむ。いいじゃろ」

 腕組みをしたまま、相好を崩した。

「おぬし美味そうじゃしな。上がれ上がれ」

 は、と意味を取り損ねた客人にかまわず、沓杷は跳ねるような足取りで屋敷に戻り、ちらりと振り返ると手招きした。
[PR]
by plasebo55 | 2012-01-04 23:16 | 戯れ言

中の戯れ言

 魔、すなわち物の怪の事である。

 そもそも物の怪の「もの」とは霊のことだ。善も悪もない。それが悪意を持つようになると、百の害ありと言われる物の怪となる。取り憑き、呪い、喰らい、疫病をはやらせるなど、物の怪の害を考えれば、魔と称されるのも当然の流れであったろう。

「儂はちいとも悪さなぞしとらんのに」

 人が説明のつかない事象をなんでも物の怪の性にし、結果自分が魔だの悪だの呼ばれるのは心外である。沓杷は不満げに唇を尖らせたが、長続きはしなかった。

「おう、客人、どうした」

 庭に敷き詰められた小石を踏みながら現れた人物に顔だけ向けて訪ねる。

「梅治さんは御留守のようですね」

 枯色の着物に丸眼鏡の男が、時折小石に足を取られながら歩いてくる。沓杷が散々待たせたのでしびれを切らしたのかもしれないが、沓杷といえば対して悪びれた様子もなく「そのようじゃな」と答えた。
[PR]
by plasebo55 | 2012-01-04 00:03 | 戯れ言