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今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
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ある魔術師と魔術助手の初めの一歩

「魔術助手に、かい?」

 子供の申し出に、俺は、ふむ、と顎を撫でる。
 目の前の子供は「お願い」と言っておきながら、ずいぶんと厳しい視線を向けてくる。生半な理由では、諦めないだろう、そういう目だ。
 俺は内心困った、と再度顎を撫でて、視線を天井に逃がした。見慣れた天井に、あ、焦げ目が、などとつぶやいたりして、言葉を整理する時間を稼ぐ。

「魔術助手は魔術師になるより大変だと思うけどねえ」

 ちらりと視線をやる。と、子供は視線を険しくしてきた。
 諦めろ、と言われたように感じたのだろう。そういうつもりはないけれど、実際、力を行使する魔術師になるよりも、力を引き出す魔術助手の方が、難関な職業だ。それに、魔術助手は、そもそも「魔力」が見えなければ──それは持って生まれる能力で、努力して身に付くものではない──なることはできない。子供の、天分の問題。

「それに俺は魔術師であって魔術助手じゃないから、教えられるほど詳しくはないし」

 同じ魔力を扱う職業であっても、その性質はまるで違うものだ。
 魔術師であっても、その技術がそのまま魔術助手の技術に生かされることはない。教える、俺の能力の問題。

 それに。

「魔術助手になりたいのは、君の父上のため、かな」

 ぎゅ、と子供の拳が握りしめられた。なんとわかりやすい肯定だろう、俺はため息をついてかぶりを振った。

 子供の父親は、あの大火事の日に命を落とした。火事のせいではない。刀傷を無数に残した遺体は、右手を切り落とされていた。何かを握りしめて離さなかったのだろう、それを、火をつけた犯人が切り落として腕ごと持ち去った。そう、近衛隊は見解を出した。

 伏せていたわけではないが、子供は、どこかでその話を聞いたのだろう。もしかしたら、父親の研究していた内容についても聞いたのかもしれない。
 いずれ、折を見て話すつもりではあったが。そこまで考えて、そうか、と腑に落ちる。子供の厳しい視線は、そもそも俺に向けられているのだ。父親の死を隠した、と。それは多分、善意、悪意にかかわらず、負の感情を呼ぶものなのだろう。

 いずれにせよ、父親が殺された理由がその持ち去られた何かだとすれば、子供がそれを知りたいと思うのは自然なことかもしれない。知るために、父親と同じ職業を目指そうと思うことも。

「そういう理由は、俺はあんまり好きじゃないんだけど」

 ぽり、と頭を掻く。

「でも、まあ、君がどうしてもっていうなら。というかどうせ何を言ったって聞きはしないだろうしね、いいよ、好きにするといい」

 子供は、何を言っても折れる気配を見せないだろう、そう、思えた。いや、そう感じられるのは、俺自身も本当は反対ではないからだ、と考えてみる。俺が、子供の父親の死の真相をしりたいと思っているからだ、と。

 いやそもそももっと単純に。

 先に考えたことを、直感的に否定して、子供にも自分にも向けて、小さく頷く。

「ただし、俺の言うことは守ってもらうからね」

 息子とは、父親の背中を追うものなのだろう、と。偉大であるとか誇りであるとかは無関係に、いずれ越えていく存在として、父親があるのだ。目の前の子供は、きっと父親が生きていても魔術助手を目指したにちがいない、そういうことだろう。

 唇を引き結んだまま、子供が勢いよく頷いたので、俺は言った。

「返事は、はい、ね。それから俺のことは先生と呼びなさいよ」
by plasebo55 | 2009-09-18 23:52 | オリジナル小説