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今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
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中の戯れ言

「なにしてんの、灯りもつけないで」

 月明かりも届かない部屋の片隅に、探していた男は膝を抱えて座っていた。
 後ろ手に扉を閉めると、パーティーの喧噪は閉め出されて、自分の足音しかしなくなる。

「まさか闇の中の方が落ち着くんだーとか言わないだろうね」

 好きこのんでこの世界に来たのでは無いとはいえ、昼日中まで眩しさにめげずに眠りこけるこの男が、今更灯りを嫌うとは思えない。パーティーの様に、人が沢山集まることも、決して嫌いではないはずだ。

「ちょっと、なんとか言ったらどう――」

 魔王。繋げようとした言葉を飲み込んで、かわりにため息をつく。誰かに聞かれたら、さすがに無事では済みそうにない。簡単にどうこう出来る相手ではないけれど。

 魔王はだまりこんだままぴくりとも反応しない。俺はゆるりと頭を振って、窓を開けた。夜空を見上げると、星が綺麗に見える。昼どんよりとたれ込めた雲は、一体何処に行ったのだろう。

「好きと言ったり嫌いと言ったり」

 ぼそりと声が聞こえて、部屋を振り返る。
 魔王は相変わらず膝を抱えていた。

「人間は、わからん」

 ぼそぼそと。
 怒ったような、途方に暮れたような、声音。多分唇をとがらせているんだろうなと思う。ぽりと頭を掻くと、窓枠に腰掛けた。

「好きなら好きでいればいいし、嫌いなら離れていればいい。それを好きと言いながら相手を憎み、嫌いと言いながらそれでも手を差し伸べる。理解出来ない。そんな偽りばかりの言葉、口にする意味があるのか」

「偽りじゃない」

 細く長く、ため息をつく。ようやく顔を上げた魔王が、親に怒られた子供のような顔をしているのがわかった。暗闇でよく見えないのに。

「好きも嫌いも同時にあるんだよ」

 もしかしたらその「わかった」のは、俺の思いこみかもしれないけれど。

「例えば俺は、お前のこと好きだけど……面倒だなあとか勘弁してくれとか、思うよ」

「それは嫌いのうちか」
「んー ああ、そうだな。嫌い。お前のこと嫌いだけど……不器用だよなあとか馬鹿だなあとか思うよ」

「……それも嫌いのうちじゃないか」

 しばらく考え込んだ後の魔王の答えは、何処までもふてくされた声で。俺は、思わず吹きだして笑う。

「そだな。嫌いかも。俺、お前のこと」

 嫌われてふてくされる魔王など、面倒臭いことこの上ないじゃないか。
 けらけら笑う俺に、魔王はさすがに不機嫌そうに口元を歪めた。

「俺も、お前の事は嫌いだ。勇者だし厚かましいし恩着せがましいし」

「あはは、結構結構」

 なんとかわいらしい魔王だろうか。そんなところが好きだ、とは、さすがに言えないが。

 

 
by plasebo55 | 2010-10-09 00:42 | 戯れ言