そしてさらに便乗する。
2005年 08月 07日
なぜ、とも思う。僕は、人を探しているだけなのに。
けれどその人は油断無く身構えていて、僕はすでに抜刀して上段に構えている。これで、いまさら戦う気なんてありません、と言ったところで信じてもらえるはずがない。し、僕だって信じる気にはなれない。もし、今日がエイプリルフールとかいう日だったとしても、なんだそうかと背中を見せたら斬り捨てられる、そんな気配に満ちている。
僕らは戦う運命だった。そういう巡り合わせもあるのかもしれないと思う。
生き残るのは勝者のみ。生きるためには、勝つしかない。
お互いにじりじりと間合いを計る。向こうは居合いなのだろうか? 未だ剣を抜かない相手に緊張が高まる。一対一での戦闘は、すべてを自分でこなさなければならない。戦略も、行動も、運を呼び込むことさえも。多対一なら考える暇もないから、すべて体に任せればいいのに、一対一は頭を使いすぎて、得意じゃない。
そう思いながら、乾いた唇を舌でしめらす。舌なめずり。嫌だと思う心とは裏腹に、体はこの戦いを受け入れて、喜びに震えている。
この人は、強い。肌で感じる。うなじの、いや全身の毛が逆立つ。
ひゅう、と風が吹いた。僕は背中を押されたように走り出す。
相手はまだ抜刀していない。このままどれくらいだかわからない相手の間合いに入り込むのは危険だ。頭で感じたそれに、けれど体は止まらない。体の動きが思考の早さを越えていく。戦うことにのめり込んでいく自分を意識する。思考が所々フラッシュして白く空白になるのを感じる。
僕の間合いに入った。刀を一閃する。
走り込んだ低い体勢のまま、左からの一閃。剣先はわずかに、決して触れることなく相手の前を通り過ぎる。相手の気配に押されただろうか、自分の間合いを取り間違えたか、腰が引ける、ことなんてあってはいけないのに。そうではない、相手の動きが速いのだ、と、こうなるといいわけのようなタイミングで僕の思考が答えを出す。
飛び退く相手を追って、足を踏み出す。相手の未来の行動が、さらにもう一歩後ろに飛び退く姿が見える。そこへ、刀を突き出す。
ひやり、と背筋が冷える。
残像は斬った。けれど目に目に見えるのは相手の剣のみ。
かわされた! 相手の姿を追って憶測で振り仰ぐ。その人はまるで軽業師のように宙を舞って、高い位置のさらに上段から斬りかかってきている。
受けるな。
上からの一撃など受けたら力で負ける。頭で考えるより早く体が応える。空振りで崩れた体勢のまま、足を踏ん張り剣を振り上げる。靴底が、ざり、と砂を踏みしめる感触。
突きとも呼べない中途半端な攻撃に相手の剣が絡みつく。笑う相手の表情が見えた気がする。獲物を捕られる。警鐘か心臓の鼓動か、頭の中にうるさく響く。その瞬間、頭が真っ白になって全身の筋肉が爆発した。結果的にはそれしかなかっただろう。僕の剣は相手を押し上げるよう、さらに突き出すように動いている。
相手が空中にいることが幸いした。剣の勢いを殺すことに成功する。
けれど相手の攻撃は終わらない。その人は僕の背後へと姿を消す。
きいん、と。高い金属音。
反射的に、やみくもに、振りだした刀にしびれるような手応え。左からの薙ぎ、か? 体勢が崩れる。たたみ込むような後続の一撃に踏ん張りきれず、後ろに飛び退く。
追ってくる、相手の雄叫び。びくり、と体が震える。
けんなどもっているからいけないのだ。
ころすことにしゅだんをえらんではいけない。
いきるということはころすことなのだから。
意識が、完全に、白く消し飛んだ。
「――初めまして、俺の敵。そしてさようなら」
耳に聞こえた声で、我に返る。
ぬるりと暖かい感触が手元を伝わる。僕の握りしめた刀はその人の心臓を差し貫いていた。
抱き合うくらいに近づいたその人からは、もうなんの音も聞こえない。刀を支える手から次第に力が抜けて、刀にぶら下がっていた物言わぬ体がずるりと音を立ててくずおれた。
* * *
僕は、人を探している。巡り会うかわからないその男を追っている。
「刀の使い手で、背の低い、茶髪の男?」
目の前の男が言う。それから僕を見る目が細くなる。まるで何を言っているのか、と不思議そうに、疑わしそうに。
男が何か言おうとするのを遮って、僕はもう少し詳しく説明する。そいつは僕の師を殺した人間で、賞金も賭けられているのだと。赤茶けた瞳の男で、そうそう、刀の鞘に白虎の細工が施されているらしのだ。
「おいおい、おまえ、鏡を見たことはあるか?」
「そんな高価なもの持ってないよ」
説明しながら、けれど、それはもう建前であることを自覚している。
僕が本当に探しているのは、師の敵なんかじゃない。僕の好敵手となる、僕より強い人間。そして僕と一緒に旅をしてくれる人だ。
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■気の済むまでいいわけ
この小説は暇つぶしのウナギ御飯さまに掲載されている「何となく便乗。」に触発されて、unnyo8739さまに許可をいただいて書きました、「ヤツ」側小説です。だので、もちろん「何となく便乗。」を先に読まれることをお薦めします。って後書きにかいていれば世話無いですが(苦笑)
エピローグから先は自分的設定、みたいな感じです。妄想です。こう書いていると、きっと喧嘩をふっかけたのは、無意識でありながらこちら側なのだろうなと思います。
unnyo8739さまの戦闘中の動作の描写は想像していてダイナミックですごいですね。「裏を書いていいですか」と言いながら、考えれば考えるほど押されっぱなしのうちの「僕」です。勝ち目ないなこれ、という「俺」の動き。それでこのオチだし。いいんですかね、これ。トラックバックしちゃいますよ。
こちらの無茶な申し出に快く許可をくださったunnyo8739さま、ありがとうございます。それからunnyo8739さまの小説のファンの方、ごめんなさい~
それでは、また。
……って、「また」ってまた無茶する気ですよ、この人!
けれどその人は油断無く身構えていて、僕はすでに抜刀して上段に構えている。これで、いまさら戦う気なんてありません、と言ったところで信じてもらえるはずがない。し、僕だって信じる気にはなれない。もし、今日がエイプリルフールとかいう日だったとしても、なんだそうかと背中を見せたら斬り捨てられる、そんな気配に満ちている。
僕らは戦う運命だった。そういう巡り合わせもあるのかもしれないと思う。
生き残るのは勝者のみ。生きるためには、勝つしかない。
お互いにじりじりと間合いを計る。向こうは居合いなのだろうか? 未だ剣を抜かない相手に緊張が高まる。一対一での戦闘は、すべてを自分でこなさなければならない。戦略も、行動も、運を呼び込むことさえも。多対一なら考える暇もないから、すべて体に任せればいいのに、一対一は頭を使いすぎて、得意じゃない。
そう思いながら、乾いた唇を舌でしめらす。舌なめずり。嫌だと思う心とは裏腹に、体はこの戦いを受け入れて、喜びに震えている。
この人は、強い。肌で感じる。うなじの、いや全身の毛が逆立つ。
ひゅう、と風が吹いた。僕は背中を押されたように走り出す。
相手はまだ抜刀していない。このままどれくらいだかわからない相手の間合いに入り込むのは危険だ。頭で感じたそれに、けれど体は止まらない。体の動きが思考の早さを越えていく。戦うことにのめり込んでいく自分を意識する。思考が所々フラッシュして白く空白になるのを感じる。
僕の間合いに入った。刀を一閃する。
走り込んだ低い体勢のまま、左からの一閃。剣先はわずかに、決して触れることなく相手の前を通り過ぎる。相手の気配に押されただろうか、自分の間合いを取り間違えたか、腰が引ける、ことなんてあってはいけないのに。そうではない、相手の動きが速いのだ、と、こうなるといいわけのようなタイミングで僕の思考が答えを出す。
飛び退く相手を追って、足を踏み出す。相手の未来の行動が、さらにもう一歩後ろに飛び退く姿が見える。そこへ、刀を突き出す。
ひやり、と背筋が冷える。
残像は斬った。けれど目に目に見えるのは相手の剣のみ。
かわされた! 相手の姿を追って憶測で振り仰ぐ。その人はまるで軽業師のように宙を舞って、高い位置のさらに上段から斬りかかってきている。
受けるな。
上からの一撃など受けたら力で負ける。頭で考えるより早く体が応える。空振りで崩れた体勢のまま、足を踏ん張り剣を振り上げる。靴底が、ざり、と砂を踏みしめる感触。
突きとも呼べない中途半端な攻撃に相手の剣が絡みつく。笑う相手の表情が見えた気がする。獲物を捕られる。警鐘か心臓の鼓動か、頭の中にうるさく響く。その瞬間、頭が真っ白になって全身の筋肉が爆発した。結果的にはそれしかなかっただろう。僕の剣は相手を押し上げるよう、さらに突き出すように動いている。
相手が空中にいることが幸いした。剣の勢いを殺すことに成功する。
けれど相手の攻撃は終わらない。その人は僕の背後へと姿を消す。
きいん、と。高い金属音。
反射的に、やみくもに、振りだした刀にしびれるような手応え。左からの薙ぎ、か? 体勢が崩れる。たたみ込むような後続の一撃に踏ん張りきれず、後ろに飛び退く。
追ってくる、相手の雄叫び。びくり、と体が震える。
けんなどもっているからいけないのだ。
ころすことにしゅだんをえらんではいけない。
いきるということはころすことなのだから。
意識が、完全に、白く消し飛んだ。
「――初めまして、俺の敵。そしてさようなら」
耳に聞こえた声で、我に返る。
ぬるりと暖かい感触が手元を伝わる。僕の握りしめた刀はその人の心臓を差し貫いていた。
抱き合うくらいに近づいたその人からは、もうなんの音も聞こえない。刀を支える手から次第に力が抜けて、刀にぶら下がっていた物言わぬ体がずるりと音を立ててくずおれた。
* * *
僕は、人を探している。巡り会うかわからないその男を追っている。
「刀の使い手で、背の低い、茶髪の男?」
目の前の男が言う。それから僕を見る目が細くなる。まるで何を言っているのか、と不思議そうに、疑わしそうに。
男が何か言おうとするのを遮って、僕はもう少し詳しく説明する。そいつは僕の師を殺した人間で、賞金も賭けられているのだと。赤茶けた瞳の男で、そうそう、刀の鞘に白虎の細工が施されているらしのだ。
「おいおい、おまえ、鏡を見たことはあるか?」
「そんな高価なもの持ってないよ」
説明しながら、けれど、それはもう建前であることを自覚している。
僕が本当に探しているのは、師の敵なんかじゃない。僕の好敵手となる、僕より強い人間。そして僕と一緒に旅をしてくれる人だ。
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■気の済むまでいいわけ
この小説は暇つぶしのウナギ御飯さまに掲載されている「何となく便乗。」に触発されて、unnyo8739さまに許可をいただいて書きました、「ヤツ」側小説です。だので、もちろん「何となく便乗。」を先に読まれることをお薦めします。って後書きにかいていれば世話無いですが(苦笑)
エピローグから先は自分的設定、みたいな感じです。妄想です。こう書いていると、きっと喧嘩をふっかけたのは、無意識でありながらこちら側なのだろうなと思います。
unnyo8739さまの戦闘中の動作の描写は想像していてダイナミックですごいですね。「裏を書いていいですか」と言いながら、考えれば考えるほど押されっぱなしのうちの「僕」です。勝ち目ないなこれ、という「俺」の動き。それでこのオチだし。いいんですかね、これ。トラックバックしちゃいますよ。
こちらの無茶な申し出に快く許可をくださったunnyo8739さま、ありがとうございます。それからunnyo8739さまの小説のファンの方、ごめんなさい~
それでは、また。
……って、「また」ってまた無茶する気ですよ、この人!
by plasebo55
| 2005-08-07 13:58
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