人気ブログランキング | 話題のタグを見る

今日もどこかで空想中。小説と戯れ言の居場所。


by plasebo55
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

ある魔術師と魔術助手と錬金術師

 その部屋は、想像よりも人の気配に満ちていた。
 こぢんまりとした部屋の真ん中には白いテーブル。天板は白。その上に薄い水色のマットが敷かれて、花が飾られている。よく手入れされた床には、重いものを落としたようなへこみやささやかなひっかき傷が見て取れる。ぎっしりと詰められた本棚に比べて、食器棚の中は閑散としていた。

「意外か?」

 ガラスのカップを僕の前に置きながら、女性が問う。僕よりわずかに年上の彼女は、けれど大人と呼ぶには若すぎる。涼しげな目元や、頭の上へまとめていた髪をほどいて頭を振る仕草などは、大人びてはいたけれど。

「いいえ、それほどでも」

 長い髪は癖一つ付かない。彼女は僕の前に座るとわずかに唇に笑みを乗せた。

「私には、君が一人で来ることこそ、意外だが」

「そ、そうですか」

 置かれたカップに手を伸ばす。液体の色はよどんだ赤紫色だが、においは柑橘系で肺がすっとする。どんな味がするかためらううちに、彼女は同じガラスのカップに、何食わぬ顔をして口を付けていた。

「ようやく錬金術に興味を持った、ということか」
「あ、ええと、それは」

「冗談だ」

 僕が返答に困っているうちに、彼女が言葉を取り下げた。しかし冗談という言葉はもう少し感情を伴う言葉じゃないんだろうか。からかうなり、あると思うけど、彼女はまじめな顔をしたまま言う。

「何が理由にせよ、会いに来てくれたことは嬉しく思う。今日君が来たのは運が良かった。昨日までなら術中で手が離せなかったから」
by plasebo55 | 2007-02-02 23:45 | オリジナル小説